「あなたと歩いていると」
いったい私は
なにをそんなに急いでいたのでしょう
いったい私は
なにをそんなに必死で探していたのでしょう
あなたとならんで
ただだまって歩いていると
私はちっとも急がない
私はなんにも探していない
なにもかも
そこにあるがままに美しいから
空を見ても
海を見ても
あなたを見ても
私を見ても
なにもかも
そのままに美しいから
「雨」
雨がね りろりろ降っていたんだよ。
透き通った窓ガラスを伝わり落ちて
ひとつぶひとつぶ キラキラ光りながら
りろりろ りろりろ、
りろりろ りろりろ。
いいえ。
雨はね。シトシト。
雨はね。ザーザー。
リロリロなんて降らないのですよ。
と 先生はまじめな顔で子供たちに言います。
そうして
子供たちの中の天使の魂は
ほんとは知っていても知らんぷりをすることを
覚えます。
そして
そのうち
あんまり退屈だから
翼をひろげて
どこかに飛んでいってしまうのです。
「井戸」
空は晴れています
花たちは揺れています
蜜蜂たちは
ずいぶん忙しそうです。
ここは私の庭です
向こうのすみのくさむらに
古い井戸が隠れています
そっとのぞいても
あおみがかった真っ黒な穴があるだけ
小石をひとつ
投げ込んでみても
いくら待っても
音は帰ってこない
その彼方に何があるのか
ほんの一瞬
どこからか光が溢れてきて
井戸の底が柔らかく輝くような気がする時があります
ここは私の庭です
「愛について」
愛を知っていますか?
あなたは愛を知っていますか?
毎日毎日
世界中は
愛という言葉の洪水です
でも
どれがほんとうの愛なのか
あなたは知っていますか?
もしかしたら
それは
便利や安心や執着やなれあい
時には 恐れやあきらめが
愛のふりをしているだけかも知れません
ほんとうの愛を探しあてるには
辛く難しいことですが
愛についての思い込みや思い違いに気付くことから
出発する他はないのではないでしょうか
あなたは 愛を知っていますか?
「脱皮」
蝉が殻を脱ぎ捨てる
海老も殻を脱ぎ捨てる
蛇も皮を脱ぎ捨てる
さなぎも繭を脱ぎ捨てる
柔らかいからだと
柔らかいこころで
まったく新しい世界に生まれるために
いのちをかけて
人もまた
いのちをかけて生まれる
せまく暗い道を
息を詰まらせ
血にまみれながら
柔らかいからだと
柔らかいこころで
この世界に生まれてくる
そんな勇気を
誰もが持って
この世に生まれてきたことを
私たちは
すっかり忘れてしまっている
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